遺伝子組換え食品、消費者に受け入れられるには?

2017年07月10日 01:00

市川まりこ 食のコミュニケーション円卓会議

不安情報が気になるのは当たり前

(写真はイメージ)赤ちゃんと食の関係は、常にお母さんらが心配する(提供はぱくたそ

もうずいぶん前のことになりますが、私は最初の子どもに離乳食を食べさせていた頃、「この子には絶対安全な食べ物を食べさせたい」と、強く願っていました。なぜなら、妊娠中から、あれはダメ、これはいいといった情報が身近にたくさんあったからです。

私はテレビや雑誌の情報を鵜呑みしていました。食品添加物や農薬は危険、特に子どもには避けた方が良いなどというショッキングな言葉は、「まさに自分が感じていることと同じだ!」と思うと、どんどん頭の中に入り込んでいきました。「特に子どもには避けた方が良い」などという文言を見たり聞いたりすると、その都度不安な気持ちになりましたが、不思議なもので、そのような情報を好んで探したりもしていました。

当時は、食品添加物を使用した危険な食品をどうして販売するのだろうとか、加工食品はやっぱり危ないと本気で思い込んでいましたので、勧められるままに無添加食品の店に通ったり、無農薬の野菜を遠方から取り寄せたりしていました。

今になって思えば、笑い話のようですが、初めての子育てでしたし、子どもの健康はとても気になることなので、ちょっとした風邪をひいても、食べ物が悪いのではないか、母親として自分に何か足りないのではないかと思ったほどでした。

思い込みの世界から出てみると

そうこうしている間に、子供は成長して手を離れ、私は空いた時間で学び直しをする時間を得ました。大学の社会人向けの講座で、長いこと気になっていた食品の安全性について、とことん納得いくまで聴講しました。食品の安全を守る仕組みをじっくりと学んだことで食品添加物、農薬、輸入食品、遺伝子組換え作物等、それまで不安を持っていたたくさんのことと冷静に向き合うことができるようになりました。自分で考え、最終的には自分が判断するというプロセスを経て、やっと納得できたのです。食の安全は、リスクの程度で判断していけばよいということを。

当初は、食の安全だけがすごく大事で、特殊なものだと考えていたのですが、普段のくらしを振り返ってみたら、さまざまな種類の安全があってどの安全が一番大切なのかと聞かれると、その場その場で答えは違ってきそうです。つまり、食の安全だけを考えると周りが見えなくなってしまいがちですが、普段の暮らしの安全問題全体の中では、一部に過ぎないという認識を持つことで少しは冷静な判断ができるようになりました。

我が家のお財布に当てはめて、何にどれだけお金を使えるかという想像をしてみると、リスクの大きさとリスク管理にかけるコストの感覚が何となく分かるはずです。目からうろこが、ポロリポロリと剥がれ落ちたのでした。

食のコミュニケーション円卓会議と遺伝子組換え

学び直しの受講生仲間、講師の方々に呼びかけて、2006年に立ち上げたのが「食のコミュニケーション円卓会議」という消費者団体です。一番の特徴は、思い込みや旧い常識にとらわれない学びと体験を大事にしていることです。そして、その成果を世の中に向けていろいろな形で発信し、消費者の利益を損ねている障害を少しでも取り払うことを目指しています。

2016年2月に、「米を食べて治す・予防する研究が進んでいる」というテーマで、都内で公開セミナーを主催・開催しました。遺伝子組換え技術を用いたコメを用いて、スギ花粉症や、アルツハイマー病、高血圧などを治療・予防する研究をされている研究者からお話を聞き、その可能性を探るというものでした。会場を交えた意見交換の反応や、アンケートの結果は、驚くほどポジティブなものになりました。参考をご覧ください。(*参考)

* * *

*参考 : アンケート集計結果(抜粋版)


食のコミュニケーション円卓会議主催公開セミナー(2016年2月6日開催)
「知らないではもったいない!!!米を食べて治す・予防する研究が進んでいる」

参加者 82名  アンケート回収数 62名分(回収率 75.6%)

☆遺伝子組換えイネを用いた機能性作物の開発についての期待感
1. 大いに期待する   44名
2. やや期待する    13名
3. どちらとも言えない  3名
4. あまり期待できない  1名
5. 期待できない     1名

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この公開セミナーを開催してみて、消費者はたとえ遺伝子組換えのことであっても、自分の役に立つと分かれば、自ら選択して活用していく道が自ずと開けるのではないかと感じました。消費者として、メリットを知った上で、あとはリスク・ベネフィットのところで、それぞれの判断ができるようになると良いのではないかと考えています。

行政の取り組みについて

遺伝子組換え技術については、よくわからないから不安、なんとなく嫌だという人から、安全といわれても安心できないという人や、理屈抜きに反対という人までありますから、よく言われる慎重な立場をとる人々は、どんな場合でも存在すると思われます。行政としてそのような人々に適切に配慮することは必要だと考えています。しかし、配慮が過剰になることで遺伝子組換え技術によって得られるメリットを享受できない人が存在することになれば、行政としての対応は公平性に欠けるのではないでしょうか。

行政には、遺伝子組換え技術を避けたい人と同様に、利用したい人が利用できるように対応する姿勢が求められていると思います。つまり、「選択の自由」こそ保障されるべきでしょう。

多くの消費者団体は、否定的ですが・・・

一昔前、「大手」の消費者団体は農業関係団体とタイアップして、輸入農作物や輸入食品を敵視するようなスローガンを掲げてきましたが、さすがにこの頃は、農家を守ることだけが消費者のためにはならないという認識になってきたのか、以前ほど農業団体のような主張をする昔ながらの消費者団体は少なくなっているように思います。

しかし、一般的に消費者団体は農作物価格の引き下げにも動きそうですが、日本の消費者団体は、なぜか安全性ばかりを強調してきています。安全のためなら、高い値段であっても国産のものを買うべきだと主張しています。

ようやく、この10年、さまざまな問題で多様な意見を主張する消費者団体が登場し、メディアにも取り上げられるようになってきました。科学的な根拠に基づく広い視点から学び、冷静に判断し、これまでの思い込みに囚われない主張をする新たな消費者運動を展開していますが、まだまだきわめて少数です。

今後どうすればいいのか

遺伝子組換え技術に対して様々な意見があることは承知しています。強硬に反対する意見を表明し、行動する人はごく一握りであるにもかかわらず、その回りにはなんとなく不安という人が多く存在しているのも事実です。「多くの費者が不安に思っている」というのは、遺伝子組み換え作物反対する人々が良く使う言葉ですが、その本当の姿は分かりづらいものがあります。

嫌な人は選択しない、適切に避けることができる仕組みを整えて配慮をすることは重要です。しかし、そういう人々にも、新たな技術が自分にも役に立つかもしれないという可能性をきちんと知らせていくことが大事なポイントだと考えます。

同時に、遺伝子組換え技術のメリットが分かれば利用したい人がいることも考慮して、表示制度などを整備しながら、社会の中での利用を進めていくことが、いま求められていると思います。

市川 まりこ


食のコミュニケーション円卓会議代表
2006年に消費者団体「食のコミュニケーション円卓会議」を立ち上げる。思い込みや旧い常識に囚われない学びと体験を重視する、21世紀の消費者運動を展開中。これまでに、食品安全委員会専門委員、経済産業省、厚生労働省、農林水産省審議会委員等を務める。消費生活コンサルタント・環境カウンセラー

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