疑問1・遺伝子組み換え作物は収穫量を増やすのか?
写真、北海道の大規模な農場(写真提供・ぱくたそ)
疑問1・遺伝子組み換え作物は収穫量を増やすのでしょうか?
答・
遺伝子組み換え作物は、収穫量の増加につながります。収穫量の増加に特に貢献しているのが、害虫抵抗性という特性を持った遺伝子組み換え作物です。害虫から穀物を守る性質を与えられています。
農業の脅威、害虫による減収
農業では害虫が、収穫を減らします。害虫を駆除する農薬を散布することが農家の仕事の大きな割合を占めます。これには大変な手間がかかります。
もちろん作物の生育や天候によって左右されますが、ある北海道の農家で、トウモロコシの場合には害虫で収穫の10%前後、多くて30%前後の収穫が害虫によって減ってしまうと聞きました。
遺伝子組み換え作物では、特定の害虫に対する抵抗性を作物に与えることができます。殺虫タンパク質を作れる微生物からその遺伝子をもらって作物の中に入れることで、作物自体が殺虫タンパク質を作ることができます。それを食べた虫が駆除されるのです。こうしたものは人間や牛などのほ乳類が食べても、害がありません。
この殺虫タンパク質は虫の消化器官にある受容体にくっついて作用するのですが、人間やほ乳類などは消化器官内にそもそもこの受容体を持っていません。また人間やほ乳類は物を食べ、吸収する際にタンパク質を消化して分解してしまうためです。
負担を軽減し、増産に役だった遺伝子組み換え作物
遺伝子組み換え作物が1996年に販売されるようになって、2016年でちょうど20年になりました。綿花やトウモロコシでは、害虫や病気による被害を減らすことによって、一貫して収量を改善しています。害虫被害によるロスが減ることで、収量が安定するためです。
PGエコノミクスという英国の農業調査会社の試算では1996年から2015年にかけて、害虫抵抗性を持ったトウモロコシの収量は平均で13.1%増、ワタの場合は15%増、それを使わない場合に比べて生産が増加しました。また南米のダイズでは遺伝子組み換えを使った場合に生産量は15%増、このようなダイズを栽培している農家は、2013年以来平均収穫高が9.6%増えました。
害虫抵抗性以外でも、雑草防除を効果的に可能にする除草剤耐性作物の場合は、作物が生育する際に雑草との競合が少なくなるため、結果的に収量も改善するケースが見られます。
これら、商品化されているすべての遺伝子組み換え作物で見た場合、世界で増えた収穫量は、1996年から2015年までの累計で、ダイズ1億8300万トン、トウモロコシ3億5770万トン、ワタ(綿花)2520万トン、キャノーラ1060万トンと推計されています。日本の穀物の国内消費が大豆で年約300万トン、トウモロコシで年1500万トンであることを考えると、この種の作物による収穫増は大変大きなものと言えるでしょう。
アメリカは農業大国であり続けました。広大な土地を使って、トウモロコシ、ダイズでは今でも世界の1−2位を争う産地です。人件費の高い先進工業国であるにもかかわらず、農業が強いのは生産性が向上し続けているためです。(関連原稿「農業でIT活用、生産増やす米国農家」)その伸びに、新しい技術である遺伝子組み換え作物は、1990年代後半から貢献しています。
(図1)米国のトウモロコシの増産
モンサント社提供
遺伝子組み換え作物は、それを使いこなすことで、収穫量を増やすことができます。
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