疑問2・気候変動に遺伝子組み換え作物は役立つのか?
写真・干ばつの光景(写真提供GATAG)
答・
植物バイオテクノロジー(遺伝子組換え技術)を活用することで、気候変動に耐える遺伝子組み換え作物を作り出そうとする試みが、各国で行われています。農業生産の維持が期待されます。
不確実性増す農業生産
二酸化炭素など温室効果ガスの増加によって、地球上の天候や気象が変化する、気候変動への懸念が出ています。気候が影響を受ける可能性があります。
IPCC(国連・気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書(2014年)によると、2100年には温室効果ガスの排出量の増加が想定される最悪の増加になった場合に、最大4.8度の気温上昇があると予測されています。(注・1986~2005年を基準とする)それに伴って、天候の不順、生態系の変化、農業への悪影響など不確実性が強まると分析されています。
植物の生育は、気温が高くなり、二酸化炭素が増えると、よくなります。しかし農業への影響は分かりません。農業では農作物の収穫を得ることを目的とします。特定の時期に、必要な量を生産しなければなりません。
ところが気候変動によって農業の条件が大きく変わっています。「異常気象」「降雨の減少」「渇水」「豪雨と洪水」「温暖化による害虫の増加、病原菌、雑草の増加」などが懸念され、世界各国でそうした現象が今起こっています。農業における予測が難しくなり、「産業」としての難しさが増すでしょう。
また、農業は人間による温室効果ガスの発生で、全体の1割強という大きな割合を占めます。(図表、IPCC第4次報告)その量を減らし、またそれに投入されることは気候変動や温暖化を止める有効な手段です。
また気候変動以外の農業の未来の問題も考えてみましょう。2011年時点の世界の人口は70億人と推定されますが、2050年には90億人、2100年には112億人になる可能性があります。増えた人類の食糧を確保しなければなりません。増産のために、新しい農業の技術を使う必要があるのです。
期待される新農業技術、遺伝子組み換え作物
それでは、今の技術にはどのようなものがあるのでしょうか。生産を増やし、生産にかかるコストを減らし、食糧を安定的に供給し、農業による環境負荷を減らす。次のような技術があります。
まず不耕起栽培です。これまでの農業では畑を耕すということをしてきました。主には雑草を取り除くためです。しかし、この作業は、土の中の微生物を減らして作物への悪影響があるという意見がありますし、土内にあるメタンなどの温室効果ガスを拡散してしまうなどの問題があります。
遺伝子組み換え作物では、特定の除草剤に耐える(除草剤がかかっても枯れない)性質を持つ性質を与えたものがあります。これにより特定の除草剤を1回散布するだけで、雑草だけが枯れて、作物は生育しますので、土を耕して雑草防除をする必要がなくなります。つまり不耕起栽培が可能になります。除草剤耐性の遺伝子組換え作物の普及によって不耕起栽培米国などで普及拡大し、その結果、土壌中からの温室効果ガスの発生を大幅に減らすことに成功しています。
また雑草が枯れた残渣が土の上に残ると、被服作物(カバークロップ)として、さらに温室効果ガスの放出削減に役立ちます。
データサイエンスを利用した精密農業の発展により、肥料として土中に投入される窒素の使用をより効果的にするという試みも進んでいます。窒素は、二酸化炭素より影響のある温室効果ガスとして知られており、窒素肥料の効率的な使用により大気中に放出される無駄な窒素を減らすことも大切です。
また温暖化の影響で、降雨量が減り干ばつがたびたび問題になる中で、乾燥下で少ない水でも生育できる乾燥耐性トウモロコシが開発され、米国で普及し始めています。
ベルギーのクロップライフという調査機関は、不耕起栽培が世界に広がればトウモロコシの収穫は世界で67%増加する、また乾燥耐性を持った遺伝子組み換え作物が世界に広がれば、2050年に世界の穀物収穫は干ばつが多発しても15−20%増加することが期待できると試算をしています。
また農業企業のモンサントは以下の目標を掲げています。上記に掲げた、遺伝子組み換え技術による除草剤耐性作物の普及に伴う不耕起栽培の推進、カバークロップ、遺伝子組み換え技術による乾燥耐性作物の普及、窒素肥料の無駄の削減などを組み合わせることで可能としているのです。
「2030年までにトウモロコシ、ダイズ、ワタなどの主要作物の単位面積当たり収量を、2000年の2倍に伸ばしつつ、作物栽培に必要な資源(水、土地、肥料など)を3分の1削減する」
「2021年までに、カーボン・ニュートラルな(温室効果ガスを増加させない)作物の生産システムを実現する」
新しい技術を使いこなすことで、気候変動を農業の面ではある程度は乗り越えられるかもしれません。環境の激変した地球でもこの種の作物を利用すれば、農業生産を維持することが期待できるのです。
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