疑問6・遺伝子組み換え作物は、地域の農業、生態系と共存できるのか?
環境省による2010年に名古屋で開催された生物多様性条約締結国会議(COP10)のロゴ
答
遺伝子組み換え作物は、各国で使われ、今では28カ国で生産されています。中国、インドなど開発途上国でも使われています。各国で地域の農業と共存した例が報告されています。また生物の多様性や生態系が人間の活動により悪影響が加わっています。この種の作物のみが悪影響を与えた例は報告されていません。
生物多様性を損なうのか?
遺伝子組み換え作物は1996年に農業で使われはじめ、この20年で急速に栽培が拡大しました。14年時点で栽培面積は日本の国土の4.8倍となる1億8150万ヘクタールになります。農家に利益となるからでしょう。
(図1)
(農研機構資料)
遺伝子組み換え作物の広がりを背景に「世界のすべての作物が巨大種子会社の提供する遺伝子組み換え作物になってしまう」という荒唐無稽の主張がネットで散見されます。そうした誤解から「遺伝子組み換え作物が生物多様性を損なう」と心配する声があります。これは事実と違います。
遺伝子組み換え技術による種子を提供するのは、世界で何社もあります。米国ではモンサント、デュポン。欧州系では、シンジェンタ、バイエル、BASFなどの巨大企業が提供しています。各社は競争しており、1社が独占する状況ではありません。
またそれぞれの作物で種子メーカーは単一の種類の種を売っているわけではありません。遺伝子組み換え作物は、トウモロコシ、ダイズ、小麦、テンサイ、ワタ、カノーラなどさまざまな作物で提供されています。例えばダイズ、トウモロコシは米国では、土地に適したもの、そして消費者のニーズに合わせてそれぞれ50種程度が売られています。それぞれの品種に、遺伝子組み換えによる形質を与えて売られています。すでにある種類の種に、例えば、害虫耐性とか、おいしさとか、特定の農薬では枯れないなどの形質を与えるのです。
遺伝子組み換え作物の花粉が、そうではない作物に受粉し、それが広がってしまう可能性を懸念する声があります。トウモロコシ、ダイズなどの花粉の飛ぶ距離は100メートル以下とされます。よほどのことがない限り、その花粉は広がりません。
そもそも農業は自然を大きく改変し、生物多様性に影響を与えてしまうものです。遺伝子組み換え作物だけを取り上げて、問題視するのは、的が外れた議論でしょう。
2016年に公表された、米科学アカデミー報告書では、遺伝子組み換え作物と野生種の交配による危険性、生物多様性への侵害は確認されないと、結論づけています。(参考記事「遺伝子組み換え作物、健康被害なし-米報告1」)遺伝子組み換え作物によって生物多様性は損なわれていません。
また各国の農業と共存する例も多数報告されています。記事「疑問5・遺伝子組み換え作物は、経済的利益をもたらすか?」で示したように、インドの伝統的なワタ栽培農業で、遺伝子組み換え作物が増収の成果を出しています。
日本の畜産業を支える遺伝子組み換え作物
日本では遺伝子組み換え作物は、法律の上で、原則として禁止されていません。厚生労働省に安全性審査をし、同省から評価依頼を受ける内閣府・食品安全委員会がそれを調査。問題がなければ厚労省が公表する形になっています。現在(17年7月時点)は200以上の遺伝子組み換え作物の安全性が確認され、国内で流通しています。
日本では、遺伝子組み換え作物は主に飼料用、コーンスターチ(トウモロコシから作られたでんぷん)などの加工原材料用に輸入され使われています。
飼料では主にダイズ、トウモロコシが使われます。2014年時点で日本のダイズ(食用含む)の自給率は7%、トウモロコシ(飼料向け)はゼロ。自給できないために、米国やブラジルなどの大産地からの輸入に頼っています。
どの程度、日本に遺伝子組み換え作物が輸入されているのかは、統計がありません。出荷の時に生産国で混ざることがあるからです。
トウモロコシで推定すると、日本が輸入する国からの輸入量と遺伝子組換え農作物の栽培面積の割合で推定すると、1500万トン以上の輸入になります。コメの生産量は年800万トン程度ですから、大変な量です。(図2参照)ダイズ、ナタネでも、かなりの量が輸入されています。おそらく日本は世界最大の遺伝子組み換え作物の輸入国になります。
(図2)
(農研機構資料)
表示では遺伝子組み換え作物を使っていれば原材料名の後に「大豆(遺伝子組換え)」などと注記します。遺伝子組み換え作物とそうでないものを分別せずに使っている場合は「遺伝子組換え不分別」としています。一方で意図せずにGM作物が混ざっている場合、混入率が5%未満なら表示義務はありません。
こうしてみると、知らないうちに、遺伝子組み換え作物は、日本人の食生活を支えるものになっています。日本の畜産業、食品生産業は、この種の作物がなければ成りたたなくなっています。
活用が期待される遺伝子組み換え作物
遺伝子組み換え作物は、そうでない作物よりもやや値段が安くなる傾向があります。最近では価格の安い「第3のビール」、などにも使われるようになっています。農業、食品での本格活用を求める声が各所にあるものの、消費者の不安からか、日本では本格的に活用されていません。
他の国で農業に利益をもたらしたように、日本でも農畜産業、食品業と遺伝子組み換え作物は共存できるでしょう。
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