遺伝子組み換え作物の誤解を解く1・組み換え作物に残留農薬は高いか?

2017年11月07日 06:19

小島正美 毎日新聞編集委員

写真はイメージ。ゲッティイメージ

遺伝子組み換え作物に関する誤解が依然として続く。その背景には、各種メディアの誤ったニュースが続くことがあるのだろう。解決策としては、そうした誤ったニュースを見つけたら、正確な情報を地道に届けていくしかない。今回はその第一弾をお届けする。

ご存じのように、すでに米国やカナダでは、大豆やトウモロコシ、ナタネ、ワタの9割以上が組み換えになっている。ひと口に組み換え作物といっても、「害虫に強い」や「干ばつに強い」など、いくつかの種類があるが、たとえば、ある特定の除草剤をまいても枯れない組み換え大豆は米国では90%を超える普及率だ。米国でいえば、グリホサート(製品名・ラウンドアップ)という除草剤に耐性をもつ組み換え大豆が最も普及している。
通常、雑草の生えた作物の畑に除草剤をまけば、作物も雑草も枯れてしまう。しかし、除草剤耐性の組み換え大豆の畑は、除草剤をまいても、雑草は枯れるが、作物の大豆は枯れない。このため、大豆を植えてから、1〜2回、除草剤をまくだけで雑草防除ができ、収穫できる強みがある。当然ながら、個々の農家にとっては、除草剤の使用量は総じて減る。しかし、除草剤耐性の組み換え大豆の面積自体は増えていくため、全体で見れば、劇的に除草剤の使用が減るわけでもない。

そういう事情のなか、「ビジネスジャーナル」という名のネットニュースで、あたかも組み換え大豆からグリホサートが数多く検出されたかのごとく報じる記事(10月27日配信)があった。これは明らかに組み換え作物のイメージダウンを狙った印象操作と言われてもおかしくないミスリード記事だ。

農薬残留の農産物や畜水産物、大量輸入の実態が判明…農産物、基準値超過は国産の5倍

その記事のもとになったのは、厚生労働省が今夏に公表した「食品中の残留農薬等検査結果」(平成24年度)。それによると農薬の検出割合は、国産品で0.29%(農薬の検査数で約128万件のうち3717件)、輸入品で約0.30%(同約290万件のうち8687件)だった。

輸入品だけで見ると農薬の検出割合が高かったのはグリホサートだった。245件を検査して131件で検出されたため、その割合は約53%だった。次いで検出率が高かったのは臭化メチル、チアベンダゾール、イマザリルなどだった。
検出率なので、絶対的な検出数が多いわけではないものの、グリホサートがトップだったため、その点について、記事では以下のように書いている。

—「これらの遺伝子組換え作物は、ラウンドアップを浴びても枯れることはないが、作物に残留することになる。その残留した除草剤の成分が、グリホサートなのである。このグリホサートが検出率5割以上であることは、それだけラウンドアップを浴びた遺伝子組換え作物が日本に大量輸入されていることを証明しているともいえる」—

この文章だと、除草剤に強い組み換え大豆にグリホサートが残留していて、それが日本に輸入された結果、検出されたと読める。しかし、これは間違いだ。この厚労省の検査結果を読み進めていくと、大豆からは検出されていない(検査数は2件と少ないが)。米国では除草剤耐性のトウモロコシもあるが、そのトウモロコシからも検出されていない。

除草剤の検出は小豆類だった

なんとグリホサートが検出されたのは、組み換えとは関係ない小豆類だ。133件調べて、63件から検出(約47%)された。小豆といっても、大福餅の原料となる小豆以外に通常の豆類も含まれるという(厚労省の話)。

どこの国から輸入された小豆類かがこの調査結果では分からないため、なぜ小豆類に残留したかは推定するしかない。真相解明は厚労省に期待したい。

どちらにせよ、この調査結果からは、日本に輸入される組み換え大豆に残留する除草剤の濃度が以前に比べて高くなっているという事実はない。

もうひとつ気になる記述があった。グリホサートに耐性をもつ雑草が問題になりつつあると書いているが、これも正確さに欠ける。確かにグリホサートを使う畑の面積が増えているため、それに抵抗性をもつ雑草がちらほら出てきていることは事実だ。しかし、別の除草剤を使ったり、別の種類の除草剤耐性の組み換え作物を使ったりすれば解決できる問題であり、現在の組み換え作物の普及を妨げるほどの深刻な問題といえる状況ではない。このことは、私が米国の農家に会って直に話を聞いているので確かなことだ。

ビジネスジャーナルの筆者が組み換え作物に反対したい気持ちは分かるが、一般の読者にニュースを届けるからには、誠実な気持ちをもって、正確に報道してほしいものだ。この件で編集部に問い合わせをしたが、返事も来ない。いったいニュースを流す資格があるのか疑問にも思った。

小島正美(こじま・まさみ)毎日新聞社生活報道部編集委員。1951年愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学英米研究学科卒。1974年毎日新聞社入社。長野支局、松本支局を経て、1987年東京本社・生活家庭部に配属。千葉支局次長の後、1997年から生活家庭部編集委員として主に環境や健康、食の問題を担当。東京理科大学非常勤講師のほか、農水省や東京都の審議会委員も務める。「食生活ジャーナリストの会」代表。 著書に『リスク眼力』(北斗出版)『アルツハイマー病の誤解』(リヨン社)、『誤解だらけの遺伝仕組み換え作物』(編著)『誤解だらけの「危ない話」』、『正しいリスクの伝え方』(エネルギーフォーラム)など。

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