組み換え食品と発達障害は無関係 ー日本人はそもそも食べていない

2017年12月04日 11:10

(ご飯を食べる赤ちゃん、写真はイメージ、無料素材ぱくたそ

小島正美 毎日新聞編集委員

遺伝子組み換え食品の普及にともなって、「自閉症などの発達障害が増えた」とか「腸の自己免疫疾患(セリアック病)が増えた」などの言説がまことしやかにネットなどで流れているが、本当だろうか。

いま消費者庁で組み換え食品の表示の見直し作業が進むが、その問題にも触れながら、考えてみたい。

いったいどんな人が遺伝子組み換え食品の普及に反対しているのだろうか。当然ながら、いろいろな思想、考えの人がいるが、私の見るところ、オーガニック食品やマクロビオティック(一口で説明するのは難しいが、あえて言えば、玄米や全粒粉を主に野菜、豆類、海藻類などを食べるスタイル)を推進している人たちの反対運動が目につく。

そうした運動に共鳴する友人もいるので、反対すること自体に異議はないが、「私の子どもは組み換え食品を食べて、自閉症になった」とか「日本人は知らず知らずのうちに組み換え食品を食べさせられている」という話を聞くと、ちょっと待って!と言いたくなる。

そもそも日本人は組み換え食品を食べているのだろうか。確かに日本は米国やカナダから、組み換え大豆やトウモロコシ、ナタネを大量に輸入している。全部合わせれば、1500 万トンを超えるだろう。それらのほとんどは食用油や家畜のえさ、清涼飲料の液糖(甘味料)の原料になる。

それら食用油や飼料、液糖は、組み換え食品の表示制度にかかわる表示義務の対象ではないため、たとえ店で食用油を買っても、「組み換え原料を使いました」という表示はない。肉や卵を買っても、「組み換え飼料を使いました」という表示もない。

食用油からDNAは検出されず

では、食用油を食べたら、原料に含まれていた組み換え遺伝子(DNA)やそれによってつくられたたんぱく質は体内に摂取されるのだろうか。そんなことはない。精製された食用油には、もとの原料にあった組み換え遺伝子は加工過程で除去されて残っていないからだ。食用油から組み換え遺伝子が検出されないことは国の試験で実証されており、このことはだれも否定できない事実だ。

また、組み換え飼料を与えられた牛や豚、鶏の肉や卵にも、もとの組み換え遺伝子は残っていない。もちろん、清涼飲料の液糖にも残っていない。残っていないからこそ、たとえ表示義務を課しても、検知する方法がないために表示の対象外となったのである。

つまり、組み換え作物由来の食用油や肉を食べても、組み換え遺伝子(DNA)やそれでつくられたたんぱく質そのものを食べたことにはならないということだ。

ということは、日本は約20年前から、大量の組み換え作物を輸入しているが、そのほとんどは食用油、飼料、液糖に使われるため、組み換え遺伝子とそのたんぱく質という観点で見ると、日本人はそれを口にしていないということになる。

組み換えと非組み換えの食べ分けは不可能

組み換え食品に反対する人の中に「私の子どもは組み換え食品を食べて自閉症になったが、やめたら、治った」という人に出くわしたことがある。この言い方は論理的におかしい。なぜなら、組み換え遺伝子の入った食品を食べたり、食べなかったりを上手に食べ分けることがそもそも不可能だからだ。

反対派の人は、おそらく「組み換えでない原料の食用油を食べたり、非組み換えの飼料を与えられた肉や卵を食べ始めたら、治った」と言いたいのだろうが、これまでに述べたように、油や肉には組み換え遺伝子は含まれていないので、仮に油を切り替えたところで、もともと組み換え遺伝子を食べていなかったのだから、論理的に言って、自閉症の原因は組み換え食品とは関係ない要因にたどりつくはずである。

そもそも「これが正真正銘100%組み換え食品です」という食品自体が実は全く流通していない。組み換え遺伝子の入った加工食品を食べたくても、食べられないのがいまの実情だ。だから、一定期間、組み換え食品を食べて、次に一定期間、非組み換え食品を食べるという比較実験をしようにも、実験さえできないのだ。

「組み換えではない」の真の意味は?

では、「組み換えではない」と表示された豆腐や納豆はどうか。日本は組み換え大豆を大量に輸入しているが、これは油などの原料に使われ、市販されている

豆腐や納豆は、別ルートで分別管理された非組み換え大豆が使われている。

だから、スーパーなどで売られている豆腐などには「組み換えではありません」と表示されている。豆腐や納豆など33食品は表示義務の対象なので、事業者は豆腐や納豆などの原料向けは、組み換えではない原料(ノンGMの大豆やトウモロコシ、ナタネ)を輸入して使っているわけだ。

しかし、「組み換えではありません」との表示は「組み換え大豆やトウモロコシが一粒たりとも混じってはいない。つまり、組み換え原料がゼロです」という意味では決してない。「日本へ輸入される過程で組み換え原料が極力、混じらないように分別管理されて輸入されたものです」という意味だ。現実には、「組み
換えではない」と表示されていても、消費者庁の検査でも最大0.3%~4%まで混じっていることが分かっている。

皮肉にも「組み換えではない」から摂取

つまり、豆腐や納豆には組み換え遺伝子(DNA)やそのたんぱく質がわずかながら残っているケースがあるということだ。だからこそ、義務表示の対象になっている。

ということは、皮肉にも、日本人は「組み換えではない」と表示された豆腐や納豆を食べることによって、ごくわずかとはいえ、組み換え遺伝子とそのたんぱく質を食べている可能性が高いということになる。

つまり、「組み換えではありません」との表示を信じて買って、豆腐や納豆を食べたら、実は「ごくわずかながら組み換え遺伝子とそのたんぱく質を食べていました」というのが真実なのである。

逆に、表示がないために、知らないうちに食べさせられている(と反対派が主張する)食用油には、実は、組み換え遺伝子が入っていない。知らずに食べさせられているという事実はないのである。

これはお笑いネタになるような話ではないか。もちろん、組み換え食品を食べても、人の健康に悪影響がないことは世界中の国や公的機関の研究で分かっているため、何も心配することはない。

ただ、日本の表示制度では、5%以下なら、組み換え原料が混じっていても、「組み換えではない」と表示できるという緩い基準が認められているため、それが結果的に消費者を欺くことにつながるのではないかという点だ。

「組み換えでない」の要件は西欧で厳しい

もちろん、豆腐や納豆などにわずかながら、組み換え原料が混じっていても、それを食べることによって、発達障害が生じるとの根拠にはならない。家畜の飼料を除き、組み換え作物がほとんど流通していない西欧でも、自閉症やセリアック病などが他の先進国と同様に発生しているからだ(2016年の「アメリカ科学アカデミーの報告書」参照)。

現に反対している人たちでも、わずかに組み換え原料が混入している豆腐や納豆などを食べている。「組み換えではありません」と表示されていながら、知らないうちに組み換え遺伝子とそのたんぱく質を食べさせられているという事実こそ、表示の最大の焦点といえよう。

「組み換えではありません」と胸をはって消費者に訴えるからには、少なくともドイツやフランス並みに「0・1%未満」以下を保証することが表示の役割だろう。識者検討会の行方を見守りたい。

小島正美(こじま・まさみ)

毎日新聞社生活報道部編集委員。1951年愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学英米研究学科卒。1974年毎日新聞社入社。長野支局、松本支局を経て、1987年東京本社・生活家庭部に配属。千葉支局次長の後、1997年から生活家庭部編集委員として主に環境や健康、食の問題を担当。東京理科大学非常勤講師のほか、農水省や東京都の審議会委員も務める。「食生活ジャーナリストの会」代表。 著書に『リスク眼力』(北斗出版)『アルツハイマー病の誤解』(リヨン社)、『誤解だらけの遺伝仕組み換え作物』(編著)『誤解だらけの「危ない話」』、『正しいリスクの伝え方』(エネルギーフォーラム)など

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