食品表示制度、誤認を忖度で許すのか? 「遺伝子組み換えでないものを分別」なのに混入

2018年02月15日 11:37

石井孝明

(写真1)日本に輸入されるトウモロコシ。大半が遺伝子組み換え作物を活用している。写真は無料素材「花盛りの森

「遺伝子組み換えでない」のに混入

「遺伝子組み換えでない」。食品店やスーパーに行くと、ダイズなどの加工食品に、原材料について、このような表示が見られる。この表示をみれば、遺伝子組み換え作物は使われていないと思うだろう。

ところが、その中に遺伝子組み換え食品が入っている。消費者庁が16年に行った調査によれば、トウモロコシでは4%、ダイズは0.3%ほどの遺伝子組み換え作物が入っていた。それは違法ではない。

トウモロコシ、ダイズは共に飼料用、加工食品用では国内消費の9割以上を輸入に頼っている。日本の現行制度では遺伝子組み換えでない作物を分別して使用している証明書があれば、最大5%の遺伝子組み換え作物が混じっていても「組み換えではない」と表示できる。

(写真2)あるスナック菓子の裏の表示。「遺伝子組み換えでない」と表示されている。

これを見なおそうという動きがようやく始まった。消費者庁が「遺伝子組換え表示制度に関する検討会を開催し、有識者・関係者が議論されている。しかし、その見直しが、より制度がより複雑になるという奇妙な方向にずれ始めている。

不正確な情報が示される、不思議な食品表示制度

遺伝子組み換え食品は1996年に米国で商品化され、世界に広がった。この技術は食物に、特定害虫が寄りつかない、収穫量が増えるなどの役立つ形質を与えている。登場時点から世界各地で、「健康に害があるのではないか」という懸念が出て、一部にその使用を批判する人がいる。当初はわからなくもないが、市場化されて20年が経過し、健康被害などの問題は起きていない。それもそのはず、遺伝子組み換え作物は国際基準で安全評価が義務付けられていて日本でも規制当局の安全性認可を得たものしか流通していない。

筆者は、この技術を積極的に使い、農家の農作業の負担の軽減、コスト削減に使うべきとの立場だ。

日本では遺伝子組み換え作物は、主に食用油、甘味料、食用油、発泡酒などに使われている。遺伝子組み換え作物の使用量は世界のトップクラスだ。消費者の批判を怖れて、主に加工品向けになっている。また栽培は禁止されていないにもかかわらず、風評被害などを怖れて、農家がなかなか使わない。

日本での表示制度は2001年に始まった。ダイズ、トウモロコシ、ナタネなど8つの作物、それらを原料にした豆腐、納豆などの33種の加工食品が表示義務になっている。

日本への飼料用、食物用穀物の輸出国はアメリカやブラジルだ。こうした国では、穀物の流通ルートが遺伝子組み換え、非遺伝子組み換えが一緒であるために、集荷・出荷の際に、運送容器の底に残るなどして、どうしても混じってしまう。そのために表示制度をつくるときに、5%以下の場合は表示を免除することになった。さらに食品業界等からの要望であえて「遺伝子組み換えでない」と任意で表記することまで認めた経緯がある。

ただし他国はもっと厳格だ。例えば、ドイツ、フランスは混入率が0.1%以下、韓国は0でないと「遺伝子組み換え作物でない」という表示は認められない。

(表)各国の食品表示制度 毎日新聞記事より

日本の食品業界は積極的に「遺伝子組み換えではない」という表示を使うようになった。この表示によって、消費者は遺伝子組み換えではない自然志向の原材料を使っているから安全と誤認するようになった。

遺伝子組み換え技術の普及を図る業界団体のバイテク情報普及会が昨年秋に女性消費者にアンケートをした。(「遺伝子組換え(バイテク)食品に関する意識調査(2017)」

そこでは73.9%の人が「遺伝子組み換えでない」という表示に、遺伝子組み換え作物が「まったく含まれていない」という誤解をしていた。

また遺伝子組み換え作物について怖い・悪いイメージを持った要因として42%の人が、「遺伝子組み換えでない」という表示をあげた。逆に、「遺伝子組み換えでない」という表示に対して持つ印象に、「安全性が高い」(77.7%)、「品質がよい」(28.3%)と、回答があった。遺伝子組み換え食品の表示制度は安全性とは関係無いと消費者庁も強調するが、「遺伝子組み換えでない」表示が安全表示と誤認を与えていることが分かる。

酷な言葉だが、混じっていても遺伝子組み換えでないと「嘘」をつくことが、公的な表示制度で認められている。さらに、その嘘が商品の安全・安心イメージのブランド化に使われている。明らかに異様な制度だ。そして遺伝子組み換えそのものの普及にも悪影響を与えている。食品表示制度は、消費者に正確な情報を提供するのが目的なのに、誤情報で遺伝子組み換え作物を使わせない、それを使った商品を買わせないという方向に誘導している。

混乱する議論の見直し−食品業界に忖度

まず今回の制度見直しでは、遺伝子組み換え食品の表示義務の対象を広げようという議論があった。消費者団体が支持をし、輸入業者、食品業界などは反対した。

議論になったのは食用油、遺伝子組み換えを使って育てられた家畜の肉、卵だ。しかし、これらの場合には、遺伝子組み換えの成分は、加工によって油に移行しない。また動物の体内に取り込まれても分解されてしまう。検知も監視もできないということから見送られることになった。

もう一つの議論が「遺伝子組み換えでない」という表示の見直しだ。この制度は前述のように誤認が多い。消費者団体、さらには有識者も取りやめを賛成した。輸入業者も、遺伝子組み換え作物の悪いイメージをこの表示が作っているために、取りやめに賛成だ。

ところが食品業界は、反対の意見を示した。「分別のコストがかかる」「量が少なくなっている非遺伝子組み換えは価格が高い」などの理由だ。しかし、この制度は表示が消費者に誤解を与えているし、正しく表示して健康被害のない遺伝子組み換え作物を使えばいいだけの話で、正当性を欠く主張だろう。

有識者会議の議論は「遺伝子組み換えでない表示」をなくす方向で進んでいた。ところが、消費者庁は業界団体の反対意向を「忖度」(そんたく)したのか、1月の検討会で、「遺伝子組み換えでないものを分別」という表示を、5%以下の混入の場合には認めてはどうかという折衷案を突如だしてきた。

この提案が通れば、新しい表示の表現がつくられることになる。せっかく廃止の方向なのに、抜け道ができることになる。

検討会は3月中に議論をまとめ、これを受けて政府は制度の見直しを検討する予定だ。委員の多く、この新表示に反対の意向だ。しかし消費者利益と相反する制度を消費者庁が推し進めた場合に押し切られてしまうかもしれない。

私たちが感心を持つ「食の安全」は、正確な情報で支えられる。消費者の誤認をもたらす今の食品表示制度の見直しは急務であり、遺伝子組み換えをめぐるあやまった情報流通を業界への「忖度」によって放置するのは許されないだろう。消費者庁や制度に「おかしい」と、消費者である国民が物申すことが必要に思える。

石井孝明・経済ジャーナリスト

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