遺伝子組み換え制度、表示はどう変わるのか?
遺伝子組み換え作物について、表示制度が大きく変わろうとしている。3月末に消費者庁がこの問題をめぐる食品衛生の制度見直しをまとめた。しかし、制度の中身は不透明なところが多い。
審議会では、「遺伝子組み換えでない」と表記できるのは、原則ゼロのみとなった。これまでは0−5%の場合に、そのように表示するのを認められていた。
「遺伝子組み換え作物、表示制度変更へ−「なし」は使えず」
国の示したガイドライン
ただし、これまで0−5%の表示をする場合にどうするのか。消費者庁は案を出した。これは最終報告案には盛り込まれなさそうだが、同庁はガイドラインなどを出す見込みだ。
消費者庁は、これまで認められていた混入率0−5%について、以下の表記を示している。食品表示法にはできるかぎり一個所に集めて表示する
1・一括して表示する事項(枠内)とは別に任意の場所に表示する場合
「遺伝子組換え原材料の混入を防ぐため分別管理されたとうもろこしを使用しています」
「分別管理された大豆を使用していますが、遺伝子組換えのものが含まれる可能性があります」
「遺伝子組換え大豆ができるだけ混入しないよう、生産・流通・加工の段階で適切な管理を行っています」
「遺伝子組換え大豆ができるだけ混入しない原材料調達・製造管理を行っています」
「大豆の分別管理により、できる限り遺伝子組換えの混入を減らしています」
2・一括して表示する事項として原材料名欄に表示する場合
「遺伝子組換え原材料の混入を防ぐため分別管理されたもの」
「遺伝子組換えの混入を防ぐため分別」
「遺伝子組換え混入防止管理済」
こうした表示例を、消費者はどう感じるだろうか。今までの遺伝子組み換えが入っていないと誤認をもたらす表示よりは改善されたものの、「遺伝子組み換え作物が混じっている」との誤認をもたらしかねないものだ。
消費者の動きは不明
実際にはすでにメーカーは動いている。
ハウス食品工業は、スナック菓子の原料表記で「遺伝子組み換え現力の混入を防ぐため、分別流通されたとうもろこしで作ったコーングリッツを使用しています」と2001年の制度導入から表記している。(図表)
ただしこの問い合わせ件数は少なく、年10−20件程度にすぎない。消費者はスナック菓子の購買では、遺伝子組み換えをそれほど
こうした自発的な取り組みをする企業は一部だ。
大豆などを使う豆腐では、「遺伝子組み換えではない」という表記が記されているものが多い。また明確にしていない飲料メーカーが多い。
消費者がどのように向き合うのか。これは見通し不明だ。有識者会議でも、「消費者がどう動くか分からない」「状況を見極め、情報の告知が必要」という意見が出ていた。
リスク認識不足の中の制度
こうしたことを考えると、この制度変更は良い点、悪い点の双方がある。表示制度は「消費者に情報提供する」という目的だ。それなのに、消費者の誤認を招きかねない表現が使われていた。これが変わるのはいいことだが、表記の政府によるガイドラインは、「この中に混入はしていない」という誤解を招きかねないものだ。
日本の食品業界の要請によって、米国などは遺伝子組み換え作物の分別制度をつくった経緯がある。一方で、そうした制度を作っても運搬の中でどうしても混じってしまう。この制度を続けてしまった以上、突然なくなるのは酷だ。けれども、新しい表示も誤解を招きかねない可能性がある。
そもそも、遺伝子組み換え作物で健康被害の可能性はない。そうした前提がある以上、あいまいな表記をできる限りなくす一方で、遺伝子組み換えに対する国民の払拭をなくすリスクコミュニケーションが必要であると思う。
制度だけが先走ってつくられると、「消費者に対する正確な情報を提供する」という、食品表示制度の趣旨が崩れてしまう。
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