遺伝子組み換え作物、使わないことに「がっかり」−ビル・ゲイツ氏の期待
がっかりだ―。
これは、遺伝子組み換え作物(GM作物)に反対している人たちへの、ビル・ゲイツ氏からのメッセージだ。
2月27日(現地時間)、レディットというネットサービスの有名人に聞くコーナーに登場したゲイツ氏は、遺伝子組み換え作物に次のように述べた。(リンク)
「遺伝子組み換え作物を使った食品は全くもって健全で、その技術は正しく使われれば、飢餓や栄養不良を減らす可能性がある」
「遺伝子組み換えでない食品を避けるつもりもないが、そちらの方が良いと人々が考えていることにはがっかりだ」
ゲイツ氏はマイクロソフトの創業者で、世界一の富豪だ。今は慈善活動が中心で、これまで科学技術の支援を積極的に行い、貧困や生活改善の動きを支援してきた。ビジネスパーソンとして、遺伝子組み換え作物の偏見や批判を残念がっているのだろう。
ゲイツ氏は2010年に、GM種子の開発をする研究機関に2500万ドル寄付している。ゲイツ財団は、「世界の食糧危機に対するため」としている。
ゲイツ財団は、2013年には、マラリアを根絶するため、英国のオキシテック社の遺伝子を組み替えたオスの蚊の開発を支援することを発表した。血を吸うのはメスの蚊だけだ。生殖機能に遺伝子操作をしたオスの蚊を放ち、メスと交尾することで、生まれてくる蚊は成虫になる前に皆死んでしまう。もちろん倫理的や影響の問題があり、慎重な分析が必要だ。しかし世界でのマラリアの死亡者は今でも毎年40万人程度とされる。この技術を使えば、環境に影響を与える殺虫剤などによらずマラリアを減らせるだろう。
ゲイツ氏は遺伝子組み換え作物の擁護の発言を積極的に繰り返していない。遺伝子組み換えについては多くの議論があり、批判を受け、紛争に巻きこまれかねないためだろう。しかしIT界の巨人が、透徹したビジネスパーソンの視点で、遺伝子組み換え技術、そして作物に期待していることは、問題を考える上で参考にしたい情報だ。
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