クイズと食、笑いで学ぶ遺伝子技術-イベント「ゲノムマイスター選手権」
(写真1)イベントの様子
科学知識をどのように社会に広げていくか。科学教育や広報、サイエンスコミュニケーションにかかわる人は、悩み、試行錯誤を重ねている。
遺伝子組み換え技術も、正しい知識が社会に定着しなかった残念な例であろう。不正確な「怖い」という印象が、社会に広がり定着してしまった。
正確な情報を広げ、定着させることはなかなか難しい。効果が見えないとか、社会に埋め込まれてしまった考えを変えることはなかなかできないためだ。
興味深い取り組みがあった。「品種改良から見る食と農の歴史と未来」~高校生・大学生ゲノムマイスター選手権~」を東京で今年8月2日、日本モンサントが筑波大学つくば機能植物イノベーション研究センターとの共催で開催した。
このイベントは、品種改良の歴史や遺伝子組換え技術、最新のゲノム技術などを高校生・大学生が学ぶために、「クイズ」と「笑い」と「食」というアプローチで、知識を高めてもらおうという取り組みだ。
実際に食べ物を食べ、答えのヒントが隠された展示を見たあと、クイズに挑戦した。また日本モンサントのウェブメディアである「モンサントジャーナル」上に公開された品種改良をテーマとした記事で学ぶこともできた。食、笑い、知識が重なることで、関係者は強い印象を抱くだろう。
品種改良をクイズで学ぶ
展示には国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 (農研機構)生物機能利用部門が協力した。展示会場には、珍しい原種と、品種改良による農作物をみることができた。人類が植物を交雑で性質を変えてきた歴史は約1万年前から確認されている。原種から大きく変わったものを人類は食べてきたのだ。
(写真2)トマトの原種と現在の品種
(写真3)メロンの原種と現在の品種 ウリをいくつもかけあわせた
クイズバトル「高校生・大学生ゲノムマイスター選手権」には総勢54名の中学生から大学院生までが参加。品種改良やゲノム技術の知識を競い、全員参加クイズ、準決勝2回、決勝戦を経て、上位3名を決めた。
優勝は法政大学生命科学部応用植物科学科4年の中里晃太さん。2位は放送大学教養学部自然科学専攻安藤武さん。3位は筑波大附属駒場中学1年麻生晃成さんだった。優勝した中里さんは生命科学を専攻する大学生で、農業に関心があるという。3位の麻生さんは、中学で生物部に属している。
以下はクイズの一部だが、読者の皆さんは解けるだろうか。(答えは後ろに)
Q1・品種改良を引き起こす突然変異はレントゲン撮影で使われるX線照射でも起こる。〇(マル)か×(バツ)か。
Q2・日本のトウモロコシの自給率はゼロパーセントである。マルかバツか。
Q3・2017年で、世界のトウモロコシの作付け免責のうちどの程度か。数字をどうぞ。
Q4・1940年代から60年代の穀物の生産性向上が向上した動きを、なんと言いますか。
Q5・品種改良でバイオマス用の品種が最近開発された、コアラの主食になる植物の名前は?
Q6品種改良によって登場した、れいほう、あきひめ、とちおとめなどの品種を持つ作物は何。
Q7・の輸入されるワタの用途で一番多いものは何か。
「笑い」と「食」で興味を深める
イベントでは、お笑いタレントの脳みそ夫氏による歴史をテーマとしたコントと絡めて、品種改良の歴史に関する質問、性質を改変された果物をテーマにしたコントが披露。人類が品種改良によってゲノム(遺伝子)を組み換えて農作物を作ってきたことを、高校生・大学生が笑いを楽しみながら、学べるようにした。
このイベントでは、品種改良に関するパネルや動画展示、野生の植物から現在の作物の変遷を見るための実際の野菜・穀物・果物の展示や、現在開発中のゲノム編集や遺伝子組換え技術によるトマトの動画、品種改良をシミュレーションで体験するコーナーなどの展示が行われた。そこにはクイズのヒントも盛り込まれた。
さらに、実際に遺伝子組換えの技術で作られたトウモロコシ、また品種改良技術で開発されたコメの、ミルキークイン、コシヒカリ、LGCソフトという3種類の品種のおにぎりの味を食べ比べて当てるクイズなどのプログラムもあった。
人間の味覚、知識、笑いを同時に体験すれば、強い印象が残るだろう。日本モンサントの中井秀一社長は「イベントで、楽しんでいただき、若い人たちに農業技術への関心をもってほしい」と期待を述べた。今回は中学生がクイズで優れた成績を残したが、強い印象で残った知識が活用されためだろう。
日本の農業は大きく変わりつつある。これまでの政府の支援中心の農政から「成長産業への変化」が求められるようになった。そして新しい世代や他産業の参入が推奨されている。こうした流れの中で、新しい世代に興味を抱かせ、深めることは、大きな意義があるだろう。
(写真4)クイズの入賞者と参加した研究者ら、タレントの脳みそ夫さん、モンサント中井社長(左)
そして品種改良や遺伝子組み換えは農業を大きく変え、日本でも期待される技術だ。それが、農業に関心を持つ若い世代に広がっていくのは、農業の未来に希望が持てる動きだ。
【クイズの答え】
Q1について・答えはマル。放射線照射で遺伝子組み換えは起こる。
Q2について・答えはバツ。飼料用はトウモロコシとして分類され、全量輸入。食用はスイートコーンと呼ばれる。
Q3について・トウモロコシでは全世界の農地で31%が遺伝子組み換え作物に置き換わっている。
Q4について・緑の革命。
Q5について・ユーカリ。
Q6について・イチゴ。
Q7について・ワタは食用油の原料になる。
(遺伝子組み換え作物ねっと編集部)
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