疑問7・遺伝子組み換え作物は、食糧供給と農業に今後どのような影響を与えるのでしょうか?
栄養の供給に期待が集まるゴールデンライス(ゴールデンライス人道委員会同委員会HPより)
答
世界の人口が爆発的に増えています。2015年に約70億人だった世界人口は2050年までに90億人を超えるでしょう。遺伝子組み換え作物による増産で、食糧不足問題はある程度は解決できることが期待されます。また日本は、衰退する農業で改革の必要性が社会的に合意され、さまざまな試みが行われています。生産性を上げるには、技術革新が必要です。これまで急速に伸びましたが、ますます世界で使われていくでしょう。
遺伝子組み換え作物を使い自由に消費されるようになれば、消費者が安い食物を手に入れ、さらに日本での農業の効率化、成長をうながすことになるでしょう。日本は年約1500万トン(推定)の世界でもっとも遺伝子組み換え作物を輸入する国の一つです。遺伝子組み換え作物の力を知り、適切に活用することが望まれます。
遺伝子組み換え作物の栽培面積は増加している
2017年現在、遺伝子組み換え(GM)作物は世界24カ国で合計1億8000万ha(ヘクタール)以上の農地で栽培されています1。北米および南米の国々において特に大規模に栽培されていますが、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの国々でも栽培が行われています。日本の国土面積が3780万haであることを考えれば、大きな広さの面積で使われていることが分かります。
2017年における遺伝子組み換え作物の栽培国
ISAAA Brief 53: Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2017
2017年までの遺伝子組み換え作物の栽培面積の増加
ISAAA Brief 53: Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2017
増大する人口への食糧供給
国連によれば、17年現在、76億人とされる世界の人口は、2050年には97億人に達すると予測されています。農作物でその需要を満たすためには、50年には農産物の生産量を12年から60%増加させる必要があると推定されています。
それなのに、気候変動の脅威が広がり、農業生産の維持ができなくなる可能性も出ています。既存の農地を有効活用するために、単位面積当たりの収量(単収)を増やすことを考えなければなりません。そのために、遺伝子組み換え作物の活用が広がっているのでしょう。
2015年に遺伝子組み換え作物が無ければ1950万ヘクタールの農地(参考:日本の総農地面積は447万ヘクタール)が追加で必要になったという試算もあります。
栄養供給の期待−「ゴールデンライス」の取り組み
これまでのGM作物による増収効果は、主に除草剤耐性作物や害虫抵抗性作物によってもたらされてきました。また世界各地の大学や公的研究機関、企業で、干ばつ耐性作物や冠水耐性作物、窒素利用効率の高い品種などの開発が進んでいることは別記事で紹介しました。(疑問2・「気候変動の抑制に遺伝子組み換え作物は役立つのでしょうか?またそれに耐えられるのでしょうか?」)
さらに栄養素を持つ遺伝子組み換え作物の開発が進んでいます。気候変動の影響を緩和しながら増大する人口を養っていくための、解決手段の1つになるでしょう。
「隠れた飢餓」という言葉があります。空腹を感じさせることなく「隠れて」健康を蝕む微量栄養素欠乏のことで、世界中で20億人以上がこの状態にあると言われています。栄養素のビタミンA欠乏を例に挙げると、アフリカやアジアの途上国で毎年25万から50万人の子供がこのために失明しています。これは野菜の摂取で取れますが、新鮮で安全な野菜は、発展途上国で得られない場合があります。
主食である米からビタミンAを摂取できれば、その欠乏を一掃できるのではないか。そのような構想の下で、ビタミンAの前駆体であるベータカロテンを作り出すイネ「ゴールデンライス」が2000年代に開発されました。そして04年、ゴールデンライスの特許権を持っていたスイスのシンジェンタ社が、必要とする途上国が無償で利用できるよう、ゴールデンライスの普及促進のために官民共同で設立されたゴールデンライス人道委員会(Golden Rice Humanitarian Board)に特許権を譲渡すると発表しました。国際稲研究所(International Rice Research Institute)で研究が行われています。
そのゴールデンライスはいまだに実用化されていません。GM作物に対する激しい反対運動が影響を与えたことも一因です。
2016年、このような事態を憂いた100名を超えるノーベル賞受賞者らが共同で、「GM作物、特にゴールデンライスに対する反対運動は即刻中止すべきである」とする書簡を発表しました。その実現が期待されます。
このように食糧供給を増やし、人類を豊かにする農業技術の一つである遺伝子組み換えを、私たちは活用していくべきではないでしょうか。
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