期待されるゴールデン・ライス(遺伝子組み換えビタミン米)
ノーベル賞受賞らの提案
「私たちは「ゴールデン・ライス」に対する反対キャンペーンをやめるように、グリーン・ピースとその支援者に申し入れます」
100名以上のノーベル賞受賞者が、「食べることでビタミンAの欠乏症を減らせる」と国際機関が研究している遺伝子組換えのイネ「ゴールデン・ライス」に反対運動をする国際環境団体グリーン・ピースに対し、16年6月に申し込んだ。(申し入れ文の要約とワシントン・ポスト記事「107 Nobel laureates sign letter blasting Greenpeace over GMOs」)
「グリーン・ピースとその支援者に、遺伝子組み換えに対する世界の農家の支持、権威ある研究機関の安全性の検証という結果を認識し、ゴールデン・ライスへの反対運動を止めてほしい」
「人間の福利厚生の増大に貢献する作物が使われないことは、大きな損失である」
手紙には1993年のノーベル医学・生理学賞の受賞者のフィリップ・シャープ氏、リチャード・ロバーツ氏、生物関連企業の経営者、研究者などが名前を連ねた。(サイト)
ゴールデン・ライスへの期待
ゴールデン・ライスはビタミンAの前駆体であるベータカロテンを、遺伝子操作でイネの中につくりだす。この技術の特許権を持っていたスイスのシンジェンタ社が、必要とする人が無償で利用できるように、官民共同で設立されたゴールデン・ライス人道委員会に特許権を譲渡した。そして国際イネ研究所(International Rice Research Institute)(IRRI)(ゴールデンライス・プロジェクト)で研究が行われている。これを食べることで、ビタミンA不足が解消することが期待されている。
ビタミンAは野菜などに含まれるが、食糧が不足する地域では新鮮で安全な食用の野菜をなかなか食べられない。世界保健機関(WHO)の推定では発展途上国の5才未満の子供の4割に当たる250万人がビタミンA不足で、免疫系の病気、視力低下のリスクに直面するという。
ただし、ゴールデン・ライスはいまだに実用化されていない。遺伝子組み換え技術にGM作物に対する激しい反対運動が影響を与えた。フィリピンでは、事件農場に侵入者があり、農地が荒らされる事件も起こっている。
グリーン・ピース米国は批判に答え、「積極的な妨害はしていない」「商品化されないのは技術的に完成していないため」と異論を述べた。
最近まだ商品化は、進んでいないが新しい動きがあった。2017年から18年にかけて米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、バングラディッシュの各国で「ゴールデン・ライス」を食品として承認。米国食品薬品管理庁(FDA)はそれを承認した上で、効果を認め推奨までしている。これは数年前に国際イネ研究所が食糧認可を申請した結果だが、その活用が広がる可能性が期待できる。
ただし、商品化のめどはまだ公表されていない。これはIRRIの広報、情報開示の不足だ。
健康を守る新技術を活用すべき
日本でも、遺伝子組み換え米による花粉症の改善の研究が行われている。(記事「スギ花粉症を治す・予防する−花粉米セミナーリポート(その1)」)遺伝子組み換え技術については、健康被害などの風評に左右され、その技術が存分に活かせなかった面がある。ゴールデン・ライスのように生活を改善する技術を活かした作物が使われないのは、世界的な損失だ。
ゴールデン・ライスを支える新しい動きに注目し、その可能性に期待するべきではないだろうか。世界の科学者の声はその支えになるに違いない。
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